比留間久夫 HP

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100%ピュア(上下)

『夢の中でも自由にさせない』
『LESSON』
『PURE』
『なぜ、シャチはオタリアを弄ぶのか?』
タイトルに挙がった候補です。
最終的に、新聞のチラシでふと見た、
『100%PURE』(100%天然果汁ジュース)という言葉が気に入って、
タイトルにしました。

ついでにタイトル命名の話をしますと、
さまざまです。
『YES・YES・YES』は、応募のときは、
『FEEL SO GOOD!』でした。
ラストシーンの主人公の言葉ですね。
自分でも「どうかなぁ? パッとしないなぁ・・・」と思ってたので、
編集者から「ほかに何かありませんか?」と言われ、
確か、
『見上げてごらん、夜の星を』
『星は何でも知っている』
『YES・YES・YES』の三つを考えて、出した記憶があります。
最初の二つは、歌謡曲のタイトルですね。
三つ目は、『不思議な体験』所収の『サリーちゃん・・・』でも書きましたが、
ジョンとヨーコの有名な出会いのエピソードからです。
オフコースの曲名からではありません。

もう一つ、思い出しついでに言うと、
このとき、自分は、
『繭泉(まゆずみ)ジュン』というペンネームを考えてました。
はい、1960年代の元祖松田聖子とも言うべき、
お騒がせ奔放アイドル、黛ジュンさんのパクリです。
『天使の誘惑』がビッグチューン♪ですね。
さすがに本名でデビューするのはまずいと、
いまさらながら、常識が働いたのかもしれません(笑)。
しかし、「幻想小説作家みたいだ。それに作中の主人公と、
作者の名前がダブるのは、あとあとのことを考えるとよろしくない」
と言われ、あえなく却下となりました。

『ハッピー・バースデイ』と『ULTRA POP』は、
タイトル先にありきです。
『不思議な体験』と『日本』は、内容そのままで、
あっさり決まりました。
『ベスト・フレンズ』は河出の編集部の人の案です。
映画のタイトルにもありました。


よもやま話が長くなりました。
では、再度、月刊カドカワの自作品解説から・・・


  『100%ピュア』

これは『ベスフレ』でも、ふれたように、
『16の夏』の凌辱のヒロインの千夏が、僕に書かせた小説です。
彼女が理不尽な暴力と闘い、
それを乗り越えてゆくストーリーが、まず、頭にありました。
それに、中編で書く予定でいた、
幼女連続誘拐殺人犯の話をくっつけたんです。
もうこれは、長くなるとわかったから、
最後まで退屈しないで読んでもらえるよう、
ミステリーというエンターテインメントの王道を用意して。
それで、2年の月日をかけて、
コツコツと「これは本当に天国に通じる扉なのか」とノックしながら、
書き進めていったんです(笑)。

僕の小説はこれまで、問題提起で終わる、
みたいなのが多かったから、
この長編では、僕なりの答え、意見表明みたいなものを出そうと思って。
やっぱ、暴力の問題って、僕のメインテーマだし。
そういう意味では、千夏の恋人の俊也に僕の思いが強く投影されてるかな。
友人は、千夏の親友であり、ネガでもある、
奔放なジュリに似ていると笑いますが(笑)。

やっぱり、書くのにツラかったのは、
犯人の薫の描写。
悪いけど、僕にはロリコンの趣味なんて、これっぽっちもないし。
でもまぁ、その手の資料を集めて。
ロスのレイプ克服センターで、
暴漢役のバイトをやる俊也のセリフじゃないけれど、
「自分の中から悪のネガなエネルギーを出すのは、
ホント、神経がすり減る」。
例えば、薫の独白や行動シーンの文章に、
不自然な空白や、乱調部分を設けてるんですけど、
それは別に実験的でも、トリッキーな狙いでやったことでもない。
本当にそんなブツ切れの不安定な精神状態になってたんですよ。
だから、薫のシーンは一気にまとめて書くようにしてました。
テンションを持続するのが大変で。
人と会うことはできない、電話にも出られない、
刺激を与えるものはいっさいダメの、
狂気の部屋閉じこもり状態(笑)。
まぁ、よく続いて、一週間が限度でしたけど。

だから、薫のような人間を頭では全否定してても、
彼が「マミマミマミ」って泣き叫びながら、
自分の性器を切断するシーンとかを読むと、
いまでも、涙が出ちゃうんですよ。
うん、わかるよ、わかる、
本当の母親を求めるお前の哀しさは、みたいな(笑)。

それと、この小説では膨大な資料を読んで。
中でも、やっぱり、フェミニズム関係と、精神医学関係が多かったかな。
犯罪の場でよく語られる『女性憎悪』って、
どこから、くるんだろう? とか、
トラウマを乗り越えられる人間と、
乗り越えられないで、破壊的衝動に駆られていく人間の、
分岐点はどこにあるのか? とか。
また、攻撃が他者(外)に向かう人間と、
自分(内)に向かう人間の違いはどこにあるのか? とか。
でも、それらはいまでも、理解できたわけではなく、
これからの小説で、追っていくテーマでもあるんですが。

そうですね、これを書いて、
一皮は剥けたって気がします。技術的にも、精神的にも。
正直に言って、最後まで書けるか、半信半疑だったし。
これまでの集大成というか、
自分にとっても、愛着がある大事な作品ですね。

ところで、この作品、
映画化される計画もあるんですけど、
実は、薫のイメージって、
フリッパーズギター時代の小山田圭吾さんなんですよ。
彼が演じてくれたら、それこそ、ハマるけど、
スキンヘッドで、全裸シーン続出だから、
たぶん、断られるでしょうね(笑)。
でも、最近は、CMで、女装もしてる彼のことだから、
もしかして・・・


 注:ちなみに映画化の話は、
   シナリオ作成まで進んだのですが、ポシャりました。
   千夏役は、当時まだ10代だった内田有紀さんがいいなぁなんて
   言ってたのを思い出します。
   下の写真は、執筆時に、
           机の前の壁に貼っていた、千夏と、薫のイメージです。
    千夏は、雑誌から切り抜いた名前も知らないどこかのモデルさん。
    薫は、勝手に使ってごめんなさい、小山田圭吾さんです。

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          この絵は、『Piero di Cosimo
           Andromeda Liberata da Perseo』です。
        小説のイメージとして、貼っていました。


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