比留間久夫 HP

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真夜中のパーティー


         礼儀知らず

 世の中には「何を言ってもわからない人間」がいる。
 何をどう説明しても、どう理論立てても、頑なに「自分が正しい」と信じて耳を貸さないのである。
 一般にホモセクシュアルをはじめ異形の性が世の中に受け入れられない理由は、その保守的な社会通念うんぬんよりも、単に人間の生理に根ざしていると考えたほうがよさそうである。
 つまり、男でありながら、男のちんちんをはふはふ咥えたり、男の性器を尻に入れられてヒイヒイ悦んでいる男は、どう見たって「気色悪い」のである。
 それに関しては、私もほぼ同意見である。当事者にとってそれらの行為は普通のヘテロセクシュアルの愛となんら変わらない敬虔で美しいものなのかもしれないが、傍目から見れば、どう見たって気持ち悪い。それを気持ち悪いと感じてしまうのは、多分に既成の美意識に毒された閉鎖性なのかもしれないが、それよりもやはり「生理的に受けつけない」といったほうが正しいであろう。
 『真夜中のパーティー』にSEXシーンはない(それはそんなことまで描く必要がなかったからではあるが)。あなたは観念の世界で、安心して、ホモセクシュアルを眺めていられる。都合の良いことに彼らは美形ですらある(原作は違う)。何やら美しいイメージ、現実の彼ら特有の気色悪さは排除され、すでにこの設定自体が差別的と言えば差別的である。
 しかしもし、それでも、美しい彼らが舞台の上で突然、踏みこんだシーンを演じはじめたとしたら? どうか悪趣味などと言わず、その姿を想像してもらいたい。
 そしたらあなたの彼らに対する興味や共感も多少ぐらつくのではないだろうか? あなたはそれをも愛し愛される人間の姿として受け入れることができるだろうか? 何かおぞましい、穢らわしいものでも見るかのように目を背けるのではないだろうか?
 おそらくはそれこそが彼らが社会から被っている『現実』である。頭(観念)では理解されても、体(生理)で拒絶されるのだ。そしてそれは私たちよりも、たぶん彼らのほうがよくわかっている。一見、彼らは『男』という意識から非常に自由であるように見えるが、実際は違う。なぜなら、彼らに対しての蔑視や攻撃はいつも既存の『男』という価値概念のもとでなされるので、彼らは普通の男以上にそれらに過敏にならざるをえないのである。そして、男の下でハァハァ快感にうめいているその姿が、とても既存の『男』という尊厳を主張できない、ある種の恥だということを彼らも心のどこかで了解している(いっそニューハーフにでもなってしまえば、話は変わってくるのだが)。
 だからまぁ、無責任なようだが、しかたないのである。人間が現在の古典的な構造を持つ限り、心はまだしも、生理だけは曲げようもない。喩えは悪いが、それはゴキブリに対する問答無用の態度に似ている。ごく稀に美しいと言う奇特な人もいるだろうが、多くの人間がそう見るにはコペルニクス的転回が必要だ。
 しかし(ここからが本題です)、
 だからといってーー、
 毛嫌いするというのと、「差別する」というのとは、似ているようでまったく違う。毛嫌いするというのは、好き好きのレベルの問題で、それはまぁ各人の自由に任せるしかないが、差別するというのは『思考』のエリアの問題である。で、毛嫌いに立ち返れば、それはその対象が何であるか考えもしないまま、また理解しようともしないまま、一方的に判断を突きつけることだから、そこには当然『思考』なぞありゃしない。
 普通、『思考』のないものに対して、人間がとるべき公平な態度は、それに対して口を噤むことのはずだ。お互いにわかり合えない違ったものと認識し一定の距離を取る、ということだと思う。だって、わからないのだから、否定しようも、肯定しようもない。そこにはただ、わからないという大きく高い壁が延々と立ちはだかるだけである。
 この世の中にはそんな基本的なことがわからない人間がなんと多いことか。蔑視と嘆きをこめて、「何を言ってもわからない人間」と呼ぶゆえんである。





 『真夜中のパーティー』(パルコ劇場)1991年3月 
    舞台プログラム 寄稿を加筆訂正



 確か、野口五郎さんとか太川陽介さんとかが出てた舞台ですね。お芝居が終わった後、パルコ劇場の廊下で、プティシャトーの染谷ママとキャンディ、トミーさんに偶然会ったことを憶えています。
 パンフに寄稿した文は・・・あいかわらず喧嘩を売ってますね(笑)
 そんなことわかってるよ。わかってて『同性愛』という虚構を楽しんでるんだよ。気持ちよく舞台を観賞させてくれよ。
 ・・・という声が聞こえてきそうです。
 水を差して、どうもすみませんでした<(_ _)>


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