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『M・バタフライ』

『M・バタフライ』を観終わった人 100人にききました!

 どうでした? 面白かった?
 J・ローンの顔が大きかったって? そんなヤボは言いっこなし。
 じゃ、若輩者ながら、私が皆さまの疑問に答えていきましょう。
 題して『映画を観終わった人 100人にききました!』

☆1位(82人)
 ルネはソンが男だって本当に気づかなかったのですか? だって、AとVって形状とか位置とか違うし、それにソンは性転換手術はしてないわけだから、PもTもあったんですよね?・・・いくらなんでも何年も一緒にいたら、バレると思うんですけど。

A:・・・そうですね、それは私も疑問に感じました。
 では、そのあたりの専門的な考察は、本日の特別ゲスト、シルクロード聖子さんに答えていただきましょう。聖子さんは私の10年来の友人で、池袋で女装の街娼をやられております。ソンと同様、ノーマルなボディで、夜な夜なメンズのお相手をしています。
 「そう、中にはケツの穴だって(いきなり下品ですみません<(_ _)>)本当に気づかない客もいるのよ。ま、酔っぱらってたり、舞いあがってる場合が多いんだけどさ。形状は使いこめば、フィストファックできるぐらい収縮性を持つようになるから(手首が入っちゃうってことですね、すごい)特に怪しまれないわね。また、すこしは濡れるようにもなるし(本当だそうです)・・・それに東洋人のVはそういう形状だとルネは思ったんじゃない? 位置はそうね、ラーゲを微調整すればどうとでも騙せると思うわ。問題はPとTね。こればっかりは隠しようにも隠れないし、ヘタすりゃ目覚めちゃうこともあるし・・・」
 「聖子さんはお客さんの上に乗って、ズンズンするのが好きだって聞きましたけど」
 「そう。でも、調子に乗って動き過ぎちゃうと、Tがお客さんの腹の上でペタペタはねちゃうのよ。だから、バレないよう万全を期すなら、後ろからしかないわね。でも、中にはペタペタはねても、気づかない客もいるのよ。かなり異常な世界にトランスしちゃって・・・ルネもたぶんその手の男だったんじゃないかしら?」
 「あと、もしかしたら、Vに対する恐怖とか不潔感があったのかもしれないですね。だから無理に見ようとしなかったし、手も伸ばさなかった」

☆2位(12人)
 ルネの言う完璧な女って、男全員が持ってる理想なんですか?

A:「つまり、従順で献身的で男のためなら死をもいとわない女ね。それってほら、誰かに要求する人間像に似てない? そう、お母さんよ。ルネはソンに母親の幻影を求めてたんだと思うわ」
 こう見えても、聖子さんは六大学の教育学部卒業でけっこうインテリです。
 「きっと実の母親と幸福な関係を持てなかったんじゃないかしら? だからあれほどまで理想の女に執着し、破滅の道を突き進んでしまった・・・ま、すごく極端なパターンだけどね。理想っていうより、ぽっかり空いた心の飢餓だったんだと思うわ」

☆3位(3人)
 もしかしたら、ソンはルネが『男』だと知ってたんじゃないですか?

A:「うん、なかなか、いいとこ、突くわね。知ってて、なおかつ幻影の女を愛さずにはいられなかった。それって普通の恋愛関係でもよくある話だものね。嘘と知りつつ、夢にすがってしまう。・・・ああ、なんか身につまされる話だわ」

☆4位(2人)
 ソンはルネを愛してたんですか?

A:「わたしは愛していたと思うわ。最後の護送車のシーンは悲しかったわね。『どう、これが本当のあたしよ。本当のあたしを見て』って訴えるところ。ソンは裸の自分を愛してほしかったのよ。彼に愛されるために着こんだ重たい仮装をすべて取り払った自分を・・・ああ、なんだかとても他人事には思えないわ」
 「まぁまぁ・・・」と私はハンカチを差し出す。

☆5位(1人)
 J・ローンがこの映画を機にその道に目覚めちゃうってことは? また、J・アイアンズと本当にデキちゃうってことは? わたし、それが心配なんです。

A:「・・・・・・」
 すいません、静かに泣かせてやってください<(_ _)>

 ・・・ってことで、なんだかクローネンバーグが読んだら、怒ってしまいそうな映画解説になってしまいましたが、まぁ、いいですね♡(いったい何がいいんだ?)

 じゃ、最後に私から皆さまにトラベルチャーンス!

 J・ローンとボーイ・ジョージの顔はどっちが大きいでしょう?
 ・・・はい、余計なお世話ですね。






  CINEMA SQUARE MAGAZINE NO.112 (1993年)寄稿を加筆訂正


 ここに出てくる、シルクロード聖子さんは実在の人物です。いろんなところを根城に、パンパンをやってました。女装して(女のフリして)通りに立ち、客を引く売春婦(夫)のことです。『立ちんぼ』とも呼ばれてました。
 もう30年ぐらい前の話です。10年ぐらいやってたのかな。大波小波はあったみたいですが、それなりに生活の糧にはなっていたようです。ぼったくるとも言ってました(笑)。この世の中にはいろんなお仕事があって、需要もあって、成立するものなんですね。
 彼を主人公にして、いつか小説を書きたいと思っていましたが、結局、かないませんでした。書くのを後回しにしているうちに企画だけで終わりました。物語をどう展開させたらいいかアイデアが思い浮かばなかったし、もうこの手の題材はすこしお休みにしようと思ったこともあります。
 彼からお仕事の話はいろいろ聞いてました。聞くと、面白おかしく細部にわたって話してくれます。基本、変態が変態を語るようなものですけど(笑)。いろんな客が(中には常連も)いたようです。
 一度、現場に取材に行こうとしたこともあります。でも、結局、行きませんでした。人通りが少ない真夜中の暗闇で、ちょっと離れてはいるものの、一緒に立っていたくはないものね。積極的に見たいものでもないし、だいたい察しがつくし。
 タイトルの候補はありました。『聖子が闇夜を駆ける』と『パンパンたちのシルクロード』です。両方とも彼の発案です。光景が目に浮かぶ、なかなか秀逸なタイトルで気に入ってました。
 ご苦労やお怒りもあったようです。事の後はいつも缶コーラを買って、うがいをすると言ってました(たぶん、口舌奉仕サービスのお客さんの後ですね)。道行く男や女に「エイズうつすなよ!」と唾を吐かれたこともよくあったそうです(当時はエイズ旋風が吹き荒れていました)。でもまぁ基本タフで、淫乱なんですね。じゃないと、できませんもの。
 彼は25年ぐらい前に故郷に戻ったようです。現在、何をしてるかは知りません。たぶんホームヘルパーでもしてるんじゃないかな。よくわかりませんけど。
 20年ぐらい前から連絡は途絶えています。僕が当時金欠で「貸してる40万のうちすこしでもいいから返してくれないか」と言ったからだと思います。「宝くじが当たったら返すわ」と約束してくれましたが、まだ当たってないのでしょう。
 当時のその手の友達で、いまも付き合いがある人は1人もいません。みんな、60歳ぐらいのオジサン(オバサン?)になってるんでしょう。懐かしいとも、会いたいとも、話したいとも思いません。みんな、一癖も二癖もあって、気が強く、自己中で、性格が悪かったもの。いまはどんな大人になってることやら? 想像するだけでも恐ろしい。なんか厄介ごとが降りかかってくるようなイメージです。
 若いから付き合えたっていうのは、やっぱりあります。思い出はあの日のまま、そっとしておきたいです(笑)。



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